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鳥取家庭裁判所 平成9年(少ハ)1号 決定 1998年1月27日

本人 N・J(昭和53.2.4生)

主文

本人を平成10年8月3日まで中等少年院に継続して収容する。

理由

(申請の要旨)

本人は、平成9年1月7日鳥取家庭裁判所で中等少年院送致の決定を受け、同年1月9日、中津少年学院に収容されたものであるが、平成10年2月3日をもって収容期間が満了となる。

本人は、平成9年2月16日付けで2級上に、同年6月16日付けで1級下に進級したが、依然として能力的な問題があり、特に対人関係の在り方について継続的な指導をする必要性が認められたことから半月間進級を保留し、集中的に指導を行った後、同年11月1日付けで1級上に進級して、現在出院準備教育過程の処遇段階において、社会適応訓練、カウンセリング等により出院後予測される問題改善のための指導を継続中である。

本人は、出院後、引受人である鳥取市内在住の実母のもとに、帰住予定であるが、実母は時間給の炊事婦として毎日稼働し、同居している本人の異父兄は自閉症のため無職であるなど、出院後の本人の指導を実母らのみに頼ることには不安が残り、十分な監護力も期待できない。

本人は、軽度の精神発達遅滞が認められ、社会生活を過ごしていく上でのハンデイが大きく、対人交流が苦手で職場などの社会生活場面にうまく適応できず、交友関係において問題が生じ再非行に走るおそれがあることから、出院後においては一定の指導者の保護のもとで経過観察を行っていくことが望ましく、社会内処遇移行後に強力な援助・指導が必要であると認められる。

よって、当院での問題点改善のための教育処遇及び保護観察の実施を考慮し、6か月間の収容継続が必要であると思料され、本人について、期間満了の翌日である平成10年2月4日から同年8月3日までの6か月間の収容継続を申請する。

(当裁判所の判断)

1  本人は、平成7年5月12日当裁判所において、建造物侵入、窃盗、有印私文書偽造、同行使、詐欺保護事件により、中等少年院送致の決定を受け、中津少年学院に収容され、平成8年5月16日に仮退院したが、その約半年後ころから、住居侵入、窃盗、無免許運転等を次々に敢行し、逮捕され、平成9年1月7日再度中等少年院送致の決定を受け、同月9日に中津少年学院に再収容された。

2  本人は、中津少年学院において、教官の指導を受け、自分の起こした事件を振り返って、その原因や自分の問題点について考えるようになり、仕事を続けられるよう規則正しい生活をする、したいことをそのまま行動に移すのではなく、まず考えて善悪を判断し、その上で行動するなど、本人なりに自分の課題を理解した上で、前向きな姿勢で生活しており、同年10月ころ、他の院生を掴むという規律違反行為はあったが、それ以降も生活態度が大きく崩れることはなかった。また、実科面でも、農園芸科農業班に入り、教官の指導に従いながら、根気強く作業等に取り組み、最終処遇段階に至って、院内での生活面、実習面、ともに従前より安定してきた様子が認められる。

しかし、対人関係の在り方に関しては、他人との関係で自分の感情をコントロールすることや、周囲の状況を考えて発言行動すること等、教官から繰り返し助言指導を受けてきたが、教官の指導を受けて改善に向けて努力する段階にとどまっており、具体的な場面において、自分自身で、そのような問題点があることに気付いたり、それを改善するためにどうすればよいかを判断できるまでには至っていない。

また、依然として自動車の運転や免許取得に対する興味関心が強く、交通に関する教育を受け、運転の危険性や交通ルールについて常識的な考えを持てるようになっているものの、免許取得に必要な適正や能力上の問題、これまでに起こした事故や事件の被害者らに対する弁償、家庭の経済状態等の、免許取得を困難とする事情があることまでは考えておらず、その困難に直面した場合、欲求を抑えられるかどうか疑問である。

そうすると、本人についてある程度矯正教育の効果が上がっている面も認められるが、前記のような問題点が未だ残されており、前回仮退院後も、一定期間は仕事を続けながら、結局生活を乱して再犯に至っていること等を考慮すると、本人が少年院という規制枠を離れた場合でも、院内で身に付けたことを実践し続けられるようにさらに指導、教育する必要性がある。

また、退院後の就職先が未だ具体的に決まっておらず、本人の能力や前回仮退院後の事情に照らすと、早期に就職先を見つけることが困難であること、退院後は、本人の実母が積極的に受け入れる意向を示しているが、本人のこれまでの非行は実母の庇護的な養育態度が大きく影響していたのであって、その態度に未だ大きな変化は見られないこと、また、実母は、本人の起こした事故の弁償を継続中であり、それを含めた家計全般を一人で支えている状況であって、自閉症の異父兄共々本人を規制する存在とはなり得ないと思われる等の事情から、退院後の保護環境についても、不安な点が多く、退院後しばらくは、本人が社会内で、自己欲求をコントロールできるような環境を築いていけるよう、就職先の確保を始め、本人を強力に監督し、あるいは励ます指導が必要である。

3  以上の事情によると、本人の犯罪的傾向については改善されている面も認められるものの、未だ矯正されたものとまでいうことはできず、また仮退院後も相当期間保護観察による指導、監督を必要とする事情が認められるので、前記収容期間満了後、相当期間収容を継続する必要がある。そして、本人の改善の程度や、保護環境の状況等一切の事情を考慮すると、その期間については、保護観察の期間を含めて、約6か月が必要と考えられ、したがって、本件申請どおり、収容継続の期間は、平成10年8月3日までとすることが相当であると思料する。

よって、少年院法11条4項、少年審判規則55条により、主文のとおり決定する。

(裁判官 桑原直子)

平成10年2月3日

鳥取保護観察所長 殿

鳥取家庭裁判所

裁判官 桑原直子

少年の環境調整に関する措置について

氏名 N・J

年齢 19歳(昭和53年2月4日生)

本籍 香川県大川郡○○町○○××番地

住居 鳥取市○○町×丁目××番地

当裁判所は、平成10年1月27日、上記本人について、中等少年院に継続して収容する旨の決定をしましたが、少年については、その環境調整に関する措置が特に必要であると考えますので、少年法24条2項、少年審判規則39条により、下記のとおり要請します。なお、詳細については、別添の決定書謄本、調査報告書4通及び意見書、再鑑別結果通知書の各写しを参照してください。

少年院仮退院時において、本人の性格、能力上の問題を考慮した、適切な就職先が確保できるよう、協力、援助すること。

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